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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)328号 判決 1961年12月22日

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取消し、本件を松江地方裁判所に差し戻す。

理由

上告人(原告)は、当初松江市を被告として、松江市長が上告人に対してした昭和三〇年度市民税並びに県民税(税額合計一、四七九円)の賦課決定の無効であることを理由として、上告人が右決定に基いて同市に納付した第一期分の納税(金三七二円の内三六九円)の返還を請求する本訴を松江地方裁判所に提起したのであるが、後、同裁判所に事件係属中、右納税金返還の訴訟に追加して、松江市長のした右市民税並びに県民税の賦課処分の無効確認の訴を提起すると共に、本件訴訟の被告を松江市長に変更する旨の申立をした。

しかるに、本件第一審裁判所たる松江地方裁判所は本訴において「訴訟の当事者は本来、当該訴訟の結果によつて影響を受ける権利義務の帰属主体でなければならないから、本件においても、前記租税の賦課徴収の効果の帰属主体が被告とされるべきであり、従つてこれをあえて処分庁たる松江市長に変更しなければならないいわれはないから」として行政事件訴訟特例法七条を本訴に準用するとしても被告の変更は認め難いとして許さなかつた。

上告人はさらに、控訴審においても、前同様、被告変更の申立を繰り返したのであるけれども、控訴審たる広島高等裁判所松江支部は「行政処分無効確認の訴は本来その権利主体を相手方とすべきであつて本件市民税の賦課処分無効確認の訴についても、控訴人は松江市を被告とすべきであるから、被告を松江市として右賦課処分により納付した分の返還を求めていた従来の訴に右無効確認の訴を追加すれば足り、ことさらに被告を行政処分庁である松江市長に変更しなければならない理由はないのである。従つて控訴人は右訴において被告とすべきものを誤つたものということはできないから、右被告変更の申立は行政事件訴訟特例法第七条の要件を具備しない不適法なものとして却下を免れない。従つて原審がこれを許容しなかつたことは相当である。」として、上告人の右被告変更の申立を許さなかつたものであることは記録上明白である。

しかし、行政事件訴訟特例法七条一項は、「原告は被告とすべき行政庁を誤つたときは、訴訟の係属中被告を変更することができる。」と規定する。元来民事訴訟においては訴訟係属中、原則として被告の変更は許されないのであるが、行政事件においては、行政法規の複雑なために従来往々にして被告を誤つた事例の多かつたことにかんがみ、特に本条を設けて原告に被告を変更することを許したのであるが、もとより何人を被告とするかは原告の定めるところに依るべきものであつて、裁判所がみだりに介入すべきものでなく、たとえ裁判所が原告は被告を誤つていると考えても、原告に対し被告の変更を促すべき義務はないと共に、原告の変更した被告が正当でないと思料した場合においても、これを許さないとする権限はないのである。本条がとくに裁判所に対しかかる権限を与えたものと解すべき根拠はなく、裁判所は弁論終結当時の原告が被告とするところに従つて被告が正当であるかどうかを裁判すべきものである。

とすれば特段の反証のない本件においては、本件訴訟の被告は一審において既に適法に松江市長に変更されたものと解すべきであり、原審がこの変更を許さずとして、もとの被告を被告として判決したことは特例法七条の解釈を誤つた違法あるものと云わざるを得ない。(本件上告人の上告申立書には、被上告人松江市長の記載があり、原判決自体の表示とそごするところがあるけれども、右は本件において適法に変更された被告を表示したことに帰着するのであるから、右上告申立をもつて不適法なものとすることはできない。)

よつて民訴四〇八条、三八六条、三八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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